シャルル・ジャラベール作 「オルフェウスの吟唱に耳を傾けるニンフたち」 232 x 189 mm 極薄の東洋紙に刷られたフォトグラヴュール 1883年

"Nymphes écoutant les chants d'Orphée" par Charles Jalabert, 1883



原画の作者  シャルル・ジャラベール (Charles Jalabert, 1819 - 1901)

版元またはパブリシャー  フィラデルフィア、ジョージ・バリー (George Barrie, Philadelphia)



絵の部分のサイズ  縦 232 mm  横 189 mm

額の外寸  縦 400 mm  横 310 mm


絵が刷られた東洋紙のサイズ  縦 259 mm  横 205 mm

版のサイズ (版がサポート(台紙)に押し付けられてできた長方形のくぼみのサイズ)  縦 277 mm  横 220 mm




 ギリシア神話に登場する詩人オルフェウスをテーマに制作されたアンティーク・フォトグラヴュール。良質の無酸紙(中性紙)を使用しているせいで、あたかも刷りあがったばかりのように綺麗な状態ですが、本品はいまから百三十年以上前に刷られた真正のアンティーク美術品です。現代の複製ではありません。




(上) Charles Jalabert, "Nymphes écoutant les chants d'Orphée", 1853, Oil on canvas, 111.8 x 91.8 cm, The Walters Art Museum, Baltimore


 版画の元になったのは、南仏ニーム出身の画家シャルル・ジャラベール(Charles Jalabert, 1819 - 1901)による油彩「オルフェウスの吟唱に耳を傾けるニンフたち」("Nymphes écoutant les chants d'Orphée", 1853)です。この作品はジャラベールが三十歳台前半で描いた傑作で、1855年のパリ万国博覧会でも展示されました。「オルフェウスの吟唱に耳を傾けるニンフたち」は、現在メリーランド州ボルティモアのウォルターズ美術館に収蔵されています。





 本品はフィラデルフィアのジョージ・バリー社が 1883年に制作した古典的フォトグラヴュールを、外寸 400 x 310ミリメートルの木製額に入れています。

 古典的フォトグラヴュールは金属の平版を用いる版画技法で、写真の原理を応用したものですが、明度を無段階に表現する再現性は、写真よりもはるかに優れています。技術的に未発達であった十九世紀の写真は言うに及ばず、デジタルカメラによる現代の写真においても、極端に明るい部分や暗い部分は写真でうまく再現できません。明るい部分は真っ白に色が飛び、暗い部分は真っ黒に潰れてしまいます。これに対して古典的フォトグラヴュールは明暗の階調を、肉眼で見えるとおりに、無段階的に正確に再現します。

 フランス語「フォトグラヴュール」、英語「フォトグラヴュア」は同じ綴りで、グラビア印刷(photogravure)と同じ言葉です。しかしながら現代のグラビア印刷は、ほとんどの場合、輪転機によるオフセット印刷であるのに対して、十九世紀のフォトグラヴュール(フォトグラヴュア)は平版による古典的な版画です。それゆえアンティーク・フォトグラヴュール(古典的フォトグラヴュール)は、現代のグラビア印刷とは比べ物にならない精細度を誇ります。





 写真では分かりづらいですが、本品ではフランス語で「パピエ・ド・リ」(仏 papier de riz)、英語で「ライス・ペーパー」(英 rice paper)と呼ぶ極薄の東洋紙が西洋紙のサポート(英 support 台紙)に貼り付けられています。フォトグラヴュールはサポート上のライス・ペーパーに刷られています。

 版画の精細度は、版の細密さによると同時に、画像を転写する紙の質にも大きく左右されます。それゆえフォトグラヴュールにはきめの細かな高級紙が使われます。フォトグラヴュールに使われる紙の質を究極まで高めたのが、「シン・コレ」と呼ばれる技法です。「シン・コレ」(chine collé)とはフランス語で「ライス・ペーパー貼り付け技法」というほどの意味です。

 「シン・コレ」において版画をサポートに直接刷らず、サポート上のライス・ペーパーに刷る理由は、ライス・ペーパーが西洋紙よりも格段にきめ細かであるからです。ライス・ペーパーによるシン・コレは、古典的フォトグラヴュールが誇る最高度の細密性を、最大限に引き出してくれます。





 本品の画面上方では、オルフェウス(Ὀρφεύς, ORPHEUS)がキタラ(κιθάρα 竪琴)を奏でつつ、叙事詩を吟唱しています。

 オルフェウスはギリシア神話に登場する古代の詩人です。オルフェウスの物語は紀元前八世紀末から七世紀初め頃に成立したホメーロス(Ὅμηρος)の詩や、紀元前八世紀後半から七世紀前半に生きたヘーシオドス(Ἡσίοδος)の著作には語られていませんが、イビュコス(Ἴβυκος 紀元前六世紀後半)やピンダロス(Πίνδαρος, c. 522 - c. 443 BC)には言及があり、いまからおよそ二千五百年前には既に知られていたことがわかります。

 アウグストゥス時代の詩人オウィディウス(Publius Ovidius Naso, 43 B.C. – c. 17 A.D.)は、叙事詩集「メタモルフォーセース」("METAMORPHOSES" ラテン語で「数々の変身」の意)において、神話や伝説の様々な変身譚を集成しました。「メタモルフォーセース」第十巻 1 - 85行には、オルフェウスが愛する妻エウリュディケーを黄泉(よみ 死者の国)から連れ戻そうとした物語が歌われています。黄泉に降(くだ)った詩人オルフェウスは、黄泉の王ハーデースと王妃ペルセフォネーの前で琴に合わせて妻への愛を歌い、妻を連れ戻す許可を乞います。ハーデースはこれを許し、ただ一つの条件として、地上に出るまで妻を振り返って見ることを禁じます。オルフェウスは妻の先に立って歩き、地表近くまで到達しますが、妻が付いてきていないかもしれないという不安に駆られて後ろを振り返り、妻を再び失います。悲しみに沈むオルフェウスはその後二度と女性に触れず、多くの女性に愛されつつも心を動かすことはありませんでした。





 本品においても、画面の上方に描かれたオルフェウスは、一人きりで詩を吟唱しています。オルフェウスが吟唱するのは上記に続く「メタモルフォーセース」第十巻の内容で、ピグマリオーンの物語( "Metamorphoses" Liber X, 220 - 297)もその一つです。ピグマリオーンは男女が愛によって結ばれる幸福な物語ですが、ニンフたちは嬉々として詩人を取り囲むのではなく、詩人から離れた場所で岩陰に隠れるように集まっています。ニンフたちはオルフェウスを愛しながらも、詩人がエウリュディケーへの愛だけに生きていること、詩人が歌う愛の物語はエウリュディケーだけに捧げられていることを知っていて、詩人に近づくことはせず、ただ遠くから詩人の声とキタラ(竪琴)に耳を澄ませているのです。





 本品は劣化しない無酸紙(中性紙)に刷られているため、百三十年以上前のアンティーク版画であるにもかかわらず、たいへん美しい状態を保っています。当店では無酸のマットと無酸の挿間紙を使用し、美術館水準の保存額装を実施しています。このページの写真は額装例で、外寸 40 x 31センチメートルの木製額に、青、または赤、または緑のヴェルヴェットを張った無酸マットを使用しています。額の色やデザインを変更したり、マットを替えたりすることも可能です。無酸マットに張るヴェルヴェットはベージュもご用意できますし、ヴェルヴェットを張らずに白や各色の無酸カラー・マットを使うこともできます。商品価格にはフォトグラヴュール、額、マット、別珍、工賃、税がすべて含まれます。


 版画を初めて購入される方のために、版画が有する価値を解説いたしました。このリンクをクリックしてお読みください。





84,000円

※ アンティーク版画、額、マット、別珍、工賃、税、すべて込み

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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